2012年度関西ベンチャー学会例会活動のご報告

2012年度の例会活動のご報告

関西ベンチャー学会は2012年度の全体例会を、8月と11月の2回開催しました。概要は以下の通りです。

【第1回 例会概要】

テーマ 「進む医療の国際化 ~医療ツーリズムの動向~」

日 時 2012年8月3日(金) 午後6時半~8時

場 所 大学コンソーシアム大阪・ルームA

講 師 植村佳代・日本政策投資銀行産業調査部副調査役

内 容   

 医療ツーリズムの市場規模は拡大する傾向にあり、中でもアジアが医療ツーリスト受け入れの一大拠点になりつつあります。2012年度の第1回例会では、日本政策投資銀行産業調査部でヘルスケア部門を担当する植村佳代さんを招き、世界の医療ツーリズムの状況及びアジア地域におけるリーディングホスピタルの戦略を紹介いただくとともに、わが国の取り組み状況、課題などを語っていただきました。

 植村さんは医療ツーリズムの現状について、「現在、世界約50カ国で医療ツーリズムが実施されているが、以前は新興国から先進国への渡航が主流だったのに対し、現在は先進国から新興国に向かう新たな流れが加わっている」と指摘。特に「近隣アジア諸国からより良い品質の医療を求めて渡航するツーリストなどが目立つほか、低コストの医療などを求める米国などからのツーリストもいる。これらのツーリストを受け入れる国々の多くでは、外貨獲得や内需拡大といった目的により、国策としての取り組みを実施している場合が多く、観光とセットになる場合も多い」と述べました。

 中でもタイ、インド、シンガポールなどの受け入れ数増加が目立つとして、タイのバンコク病院医療センター、バムルンラード国際病院や、シンガポールのラッフルズ・メディカル・グループ、インドのアポロ病院グループなどの具体的な取り組み例を紹介。さらに、最近医療ツーリズムのマーケティング活動を強化している韓国の戦略についても触れました。そのうえで、わが国も2010年の閣議決定された「新成長戦略」に「国際医療交流の促進」が盛り込まれたことをきっかけに、医療ツーリズム促進のための体制づくりが進んでいると報告。「医療ビザ」新設や海外に向けた情報発信、医療通訳者の育成など課題は多いものの、「医療ツーリストの受け入れが進展すれば、わが国経済の発展に寄与するだけでなく、医療費の抑制で赤字経営を余儀なくされている医療機関の経営改善も期待できる。また、医療機関と自治体の連携による医療産業集積の形成は、医療ツーリストの呼び込みに効果的であるだけでなく、地域経済の活性化にもつながる」と述べました。

講演終了後は参加者との間で、活発な質疑応答が展開されました。

 【第2回 例会概要】

テーマ 「守れるか海洋権益 ~資源確保戦略を問う~」

日 時 2012年11月27日(火)午後6時半~8時

場 所 大学コンソーシアム大阪・ルームA

講 師 坂元茂樹・神戸大学大学院法学研究科教授

内 容 

次世代のエネルギー源として最近にわかに脚光を浴びているメタンハイドレートをはじめ、日本近海には豊富な海洋資源が眠っています。これらの海洋資源を有効に活用することができれば、日本の国力が一変する可能性もあります。また、生物の生態系に悪影響を与えない採掘技術の開発など、産業界にとっても新たなイノベーションを起こすチャンスが巡ってきます。そこで2012年度の第2回例会では、海洋権益についての第一人者である神戸大学大学院の坂元茂樹教授を招き、海洋資源獲得を巡って展開されている各国間の競争の現状と我が国の課題を語っていただきました。

坂元教授はまず、海洋資源開発事業の強化で「海洋強国」を目指す中国の戦略と、南シナ海における中国とASEAN諸国との間の領有権紛争について解説。その背景としてアジアにおけるエネルギー需要のひっ迫から、特に南シナ海の石油・天然ガス資源の重要性が高まっていることを挙げました。

また、「政府は07年の海洋基本法制定と総合海洋政策本部の設置で、海洋開発は日本経済の存立基盤であると位置付け、翌年閣議決定した海洋基本計画では当面の探査・開発の対象を石油・天然ガス、メタンハイドレート、海底熱水鉱床と決定した」と、海洋開発に関する日本政府の考え方を紹介。特に日本近海に存在するメタンハイドレートと、多くのレアメタルを含む海底熱水鉱床、コバルトリッチクラストについて、その重要性とわが国の探査活動の現状について解説しました。

そして、南シナ海だけでなく東シナ海でも資源獲得競争が熾烈になっているとして、大陸棚の境界画定を巡る日本と中国の争いを挙げ、両国は08年にこの問題を棚上げして同海域の共同開発に合意したにもかかわらず、中国は中間線の中国側海域において一方的な開発を続けていると指摘。日中は自らを「戦略的互恵関係」と位置付け、東シナ海を「紛争の海」から「協力の海」に変えることで一致したはずであり、その実現形態としての共同開発の枠組みを壊してしまったら、「どちらも資源確保の利益を得られないことに気付くべきだ」と述べました。

そのうえで、「核心的利益」という言葉で海洋資源の獲得に国力を集中し、紛争が生じると国家主権を盾に第三者による紛争解決に委ねようとしない隣国に立ち向かうため、「政府には日本の将来を見据えた海洋戦略の策定が必要である」と強調しました。

講演終了後は参加者からの質問が相次ぎ、予定時間を大幅に上回るほどの充実した内容の例会となりました。

(以上です)

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