提言

関西ベンチャー学会は2016年11月、
「関西における起業促進のための提言」をまとめ、関係各機関に送付いたしました。提言の全文は以下の通りです。とりまとめの中心となった宮田由紀夫副会長(=当時、現・常任理事)のインタビュー記事(2017年4月20日付日経産業新聞)も掲載いたします。

2016年11月

関西ベンチャー学会

「関西における起業促進のための提言」

関西ベンチャー学会は、2001年の設立以来、ベンチャー企業経営者、起業志望者、起業支援者、ベンチャー企業研究者など多様な会員を擁し、ベンチャーに関する理論的研究、実証分析、さらにベンチャー企業家の支援、市民への啓蒙活動を通してベンチャー企業活動の増進に努めてきた。関西独自でベンチャー創生活動を行い、関西経済・社会に貢献することを目指している。

これまで関西経済は企業家によるイノベーションによって発展し、企業家の旺盛なチャレンジ精神は関西独自の文化ともなってきた。しかし、今日、関西経済では新規開業率が廃業率を下回る状態が続き、その差は関東、中部に対してだけでなく全国平均よりも大きくなっている。関西経済の国内総生産に占めるシェアも全国の6分の1、関東の2分の1であり、失業率も全国平均を上回り、苦境が続いている。ここから脱し、関西経済を再活性化させるためには、起業促進・新たなビジネスの興隆こそが重要である。

そこで、関西ベンチャー学会では、2016年度の活動として、上場を目指すベンチャー企業に限定せず、企業の設立を「起業」と理解し、「関西における起業促進のための提言」を行うこととし、学会員へのアンケート調査、例会、研究会での議論を重ねてきた。学会自身が新たな努力を行うとともに、大学、行政(自治体)の諸団体に起業促進の要望を明らかにした。

関係者各位のご理解・ご協力をお願いする次第である。

 

関西ベンチャー学会会長 林茂樹

mail:info@kansai-venture.org

 

 

I.行政への要望:

①  起業家は首都圏に比べて関西圏が財・資本・労働の市場としての規模が小さいことが、企業の設立後の成長の足かせになっていると考えている。潜在的な市場情報、特に顧客情報が行きわたるよう起業家と既存企業等とのマッチング事業を強化して頂きたい。

②      起業支援に際して、どの起業家も同じように支援するばら撒き型の支援よりも将来性のある起業家に限定して手厚い支援をした方がよいという考えがあるが、公平性の点・目利き能力の点・損失が生じた際の処理の問題などから実行は難しい面もある。公的資金を使ってのハイリスク・ハイリターンの投資を行うことは納税者に負担をもたらせる恐れもある。そこで、公的な起業支援として、ふるさと納税など寄付によるファンドをつくり、そこから外部の有識者による目利きも活かした投資・融資を行うことが考えられる。すでに実施している事例もあるが、このような試みを一層拡充して頂きたい。

③      設立間もないベンチャー企業はヒト、カネ、スペース、時間の制約から学生インターシップを受け入れる余裕がないところが多いので、学生インターンシップを受け入れたベンチャー企業には補助金を支給する等の支援制度を検討していただきたい。

④      大学におけるビジネスマナー、知的財産論、ベンチャービジネス論の講座に講師を積極的に派遣した大企業に対しては財政支援でなく表彰を行うことによって、企業のイメージアップという誘因を与えることを検討して頂きたい。

 

II.大学への提案:

①      起業は社会経験を積んでから行われることが多く、また、わが国の現状では起業設立の失敗からの再起は必ずしも容易ではない。学生ベンチャー創設数の増加にはこだわる必要はなく、むしろ安易な起業の奨励は慎むべきであると考えられる。しかし、一方で起業家は企業設立後に勤務してくれる優秀な人材を集めることに苦労している。学生がライフデザインの中で、卒業後社会経験を積んでからの企業設立や就職先としてベンチャー企業を選択肢に入れるよう、特にビジネスの現場を知るためのインターンシップやフィールドワークも含めて、学生に指導をしていただきたい。

②      今日、大学受験のため高校の早い段階で理系、文系と分かれてしまい、受験科目以外を軽視する風潮が強い。そこで、入学後に理工系の学生に対して経営学や会計学、文系学生に自然科学、生命科学、地球科学の基礎論、さらに全分野の学生に学際分野としての知的財産論、ベンチャービジネス論、環境保護論、情報工学論、国際地域理解入門などについての講座を外部講師の活用も含めて充実させて頂きたい。これらの科目は単に「教養」科目としてではなく、社会に出てから有用な実学であるとの認識を学生に与えていただきたい。

③    既存企業に勤務して社会経験を積み、人的ネットワークを築いてから起業することが多いので、卒業後年数経過した卒業生に対しても、それまでの同窓会会費や寄付の多寡にかかわらず、大学発ベンチャーと同様に創業支援の対象としていただきたい。

④    関西ベンチャー学会は起業に関心のある学生の大学を超えたネットワーク構築に努めるので、各大学におかれても学内のビジネスプランコンテストの優勝チームなどを積極的に学外でのコンテスト、発表会、交流会に参加させていただきたい。

 

III.関西ベンチャー学会の目指す方向:

①      関西ベンチャー学会はアカデミックな専門的知識を質量ともに増大する場であるとともに、事業活動に直結する情報交換、人的ネットワークの形成の場として機能してきた。これをさらに強化し、顔の見える交流を強化し、会員が紹介した人材ならば安心して採用するという信頼関係を醸成し、学会が人材の産学官(公)の組織間移動、人材交流の仲介役となることを目指す。

②      関西ベンチャー学会は年に2回の例会、1回の年次大会に加えて、いくつかの研究部会を設立し、そこでの研究活動を重視してきたが、研究部会間の情報交換や情報発信がより求められる時代となってきた。そこで、全会員ならびに外部にも開放された例会の開催数を増やし、学会全体の交流を促進するとともに情報発信力を高める。

③     起業するか、思いとどまるかの違いを説明する要因として、「家族の理解」の有無が重要である。起業がリスクを伴うことは事実であるが、起業を支援する制度が整備されていること、いきなり大きな負債を抱えて起業するわけではないことなど、学会として一般市民に対して起業に関する情報を発信し、起業への理解を深めて頂くべく啓発に努める。

④     起業に関心のある学生は各大学に一定数は存在しているので、彼らを集めて交流会や発表会を行い、大学を超えた将来のための人的ネットワーク作りを支援するとともに、当会会員を中心に起業家、研究者、起業支援ビジネス関係者との交流を通して、起業への関心を持ち続けてもらえるよう努める。

⑤      企業はイノベーション促進のため自前主義を捨てアイディア、知識、技術を外部から取り入れなければならない。ベンチャー企業と連携・提携することは、自らのリスクを軽減しつつ新規事業に進出する有効な戦略である。また、産学連携における委託研究、共同研究で得られた成果が必ずしも自社の事業計画と合致しないときには、大学発ベンチャーの設立を支援し技術の新たな展開を見定めてから提携・買収を再検討することも戦略として重要である。このように既存企業は社会貢献(チャリティ)としてではなくビジネス戦略として起業家と連携できるはずである。当学会は既存企業と、ベンチャーとのWin-Winの関係構築の促進を支援する。

以上


↓宮田由紀夫副会長(=当時、現・常任理事)のインタビュー記事

 2017年4月20日付日経産業新聞インタビュー記事

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