第55、56回文化観光研究部会のご報告

文化観光研究部会は、NPO法人スマート観光推進機構の「観光のひろば」との共催として開催しています。以下ご報告です。

第55回文化観光研究部会

日時 6月13日 (木)18:30~20:30
場所 中央復建コンサルタンツ大会議室
講師 宮本 倫明 氏(株式会社Landa 代表取締役)
テーマ 「博覧会のプロデュースとは? そして観光!」

宮本さんは1970年の「大阪万博」に従事したイベントプロデューサー・北本正孟さんに弟子入りし、堺屋太一さんから地方博のイベントの企画・プロデュースを学び、その後独立しました。

89年の「海と島の博覧会・ひろしま」、92年の「第1回ジャパンエキスポ富山」、2001年の「うつくしま未来博」(福島県)をプロデュース。総合プロデューサーとしての初仕事が「うつくしま未来博」で、37歳の時だったそうです。環境に配慮した博覧会を目指したということで、豊富な水を使った水力エスカレーターを造り、民話パビリオンなども造りました。民話パビリオンは、ご高齢の語り部の減少で民話が継承されなくなる危機感から生まれましたが、住民から民話の語り部を残したいとの声が大きくなり、民話研修会を県内7カ所で開催。百数十名の語り部が誕生したといいます。

04年の「えひめ町並博」では、町そのものを使い、パビリオンは造らない町博をプロデュースしました。ここでは「地域の人が知っている情報も、地域で共有されていない」ことに気がついたといい、地域住民を集めた座談会を28市町村でそれぞれ何回も開催しました。「面白くなかったら次回は来なくてもいい」「面白かったら仲間を連れて参加する」といったゆるい感じのおしゃべり会で、「どうしたら客が来るか、楽しんでもらえるか」を話し合ったといいます。参加者が参加者を連れて来て、それが多くのグループに発展し、全体プログラムに発展したといいます。「甦れ!明治の婚礼」では、タンスの肥やしになっていた古い着物を観光客に着てもらおうというグループと「人力車」を引こうというグループが連携して新しい体験プログラムを立ち上げるなど、これまでなかった、地域住民同士の協力も生まれたようです。内子町ではレトロバスを走らせたのですが、博覧会が終わってからも、旅客自動車運送事業の免許を取り、バスを1台から3台に増やして事業化したといいます。

「えひめ町博」などのプロデュースを通じて、住民の声を聞き、住民がしたいと思うものを聞き出すなかで、「学べる」「モチベーションが上がる」「多少稼げる」ということが大切だと気づいたといいます。

09年には「美し国おこし三重」に取り組みました。実は「えひめ町並博」を視察に来た三重県の職員が、10年後の伊勢神宮遷宮の後イベントとして相談に来たことがきっかけだったといいます。三重県はNPO先進県で、地域のグループに「博覧会のパートナーグループ」に登録してもらい、6年間で4500回を超える座談会を重ねたといいます。具体的には、「ソーシャルレジャー」グループでは地域貢献としての海洋清掃を行った後、お楽しみとしてたこ焼き大会を開催。「物語おこし」グループでは、マップや紙芝居を作り、そのネタを元にツアーを行いました。「チャレンジキャンプ」グループでは、サッカー部の学生の合宿が行われましたが、「技術的・体力的にはサッカーに学校間の差がなく、技術を教えるのではなく、コミュニケーション能力を鍛える」との監督の思いから、荒れた田んぼの開墾に取り組んでもらったといいます。農具だけを渡して自分で考えさせ、当初は開墾が進まないことに学生も悩み、雑魚寝しながら「3人セットで開墾+根っこを運ぶチーム」手法を思いつき、一気に開墾が進んだといいます。土地のオーナーも大喜びでしたが、サッカーもその年全国優勝したということで、地域の人がバスで応援に押しかけたとのエピソードをお聞きしました。

15年には「道頓堀盆おどりインターナショナル」を、道頓堀の遊歩道で開き、2025人の踊り手を集めギネス記録更新を達成しました。南米では1万人規模の盆踊りが盛大に開催されており、盆踊りを世界に広げたいとの思いもあったといいます。開催前夜、雨の予報があり600人がキャンセル。ギネス達成が危ぶまれたのですが、周辺の人に「応援してください」と呼びかけたところ、参加してくれてギネス達成。こうした呼び掛けに応じてくれるのも 「大阪ならでは」と、宮本さんは語りました。

17年のカザフスタンで開催された「アスタナ万博」では、ジャパンデーの取り組みとして、大阪から海外初公開の宝恵駕籠と福娘を派遣。喜ばれたといいます。同じ年には「関西イベントダイナミクス」を開催。現在は「道頓堀Vision」のリニューアルに取り組んいます。映画「ナイトミュージアム」で、博物館の展示物が動き出すように、道頓堀の看板の「カニ」「グリコマン」「タコ」などが、夜になると動き出す動画を作るプロジェクトなどを進めているそうです。

また夢洲IR会場などに、第二の道頓堀「Little Dotonbori」を実現させる構想を練っていることや、「食博覧会大阪 2021」「大阪城10万人の大盆踊り」など、今後の取り組みも紹介しました。

最後に「2025年大阪・関西万博」の開催意義について、「世界にとっての意義」としては「持続可能な開発(SDGs)」「日本だけでなく、世界にビジネスを広げ、文化を発信する機会」、「日本にとっての意義」として「日本の国家戦略、特にSociety5.0との整合性」、「大阪・関西にとっての意義」として「大阪の成長戦略の起爆剤」「世界における関西の認知度向上」を挙げ、この3つの意義を達成させようと、講演を結びました。

 

第56回文化観光研究部会

日時:8 月 5 日 (月) 18:30~20:00
場所:中央復建コンサルタンツ大会議室
講師:星乃 勝 関西ベンチャー学会常任理事・文化観光研究部会副主査 (NPO法人スマート観光推進機構
理事長)
テーマ:「最新のインバウンド観光のトレンド!」

星乃さんは「今日はインバウンド観光でこんなことが起きてるというような話から、今後どのようになるのかを紐解くお話をさせていただきます」と講演を始めました。

まず少子高齢化について、14歳以下の人口が減少し65歳以上の高齢者が大幅に増加、そして生産年齢人口が急減すると述べ、「人口が減少するから、交流人口(観光)でカバーしよう。日本人は減少するから、外国人でカバ−しよう。それが、雇用や経済につながるので、国も観光に取り組んでいる」と語りました。以下、星乃さんの講演要旨です。

2018年の訪日客の旅行者数は3,119万人(対前年比8.7%増)。訪日客の旅行消費額は旅行消費全体の17.3%に拡大し、日本人の観光の減少を訪日客がカバーしています。ただ、日本だけ外国人観光客が増えているのではなく、世界中で観光客が増えています。2000年の6億8千万人が、2018年に14億人になりました。2030年には18億人と予測されています。

トリップアドバイザーの「外国人に人気の日本の体験・ツアー2019」ベスト30によると、大阪10件、東京10件、京都8件。大阪はアクティビティが少ないと言われていましたが、一気に増えてきました。そして訪日客の「コト消費」が地方に広がっています。沖縄では「リゾートウェディング」が、伊勢志摩では「海女小屋体験」が、高野山では「宿坊体験」が、「しまなみハイウェイ」では「レンタサイクル」が増加しています。これらのアクティビティが地方にあるので、地方への観光客分散に繋がっているのです。

訪日客の「飲食費」「宿泊費」「娯楽サービス」が2ケタ成長となる一方、1位の「買物代」は落ち込んでいます。飲食費を含める「コト消費」のウェートが高くなりつつあります。 ただ、日本の菜食主義者は5%以下ですが、欧州では15%、インドでは30%と言われています。菜食主義者やムスリム(イスラム教信者)向けの料理を提供する店舗が、まだ少ないのが課題です。

純資産3000万ドル以上を所有する「超富裕層」は、2016年に20万人。世界人口の約0.003%に過ぎませんが、資産は世界全体のGDPの3割に達するといいます。超富裕層はプライベートジェットで移動し、高級ホテルに宿泊し、特別な体験を希望して、全国を飛び回るのです。

観光地の公衆トイレは2016年度に2万4524基。うち大便器の42%、1万基が和式トイレといいます。訪日客はトイレの向きが分からず、便器に座ってしまう人も多いといいます。洋式トイレの普及が求められるところです。また、日本人の49%が刺青(タトゥー)は「不快」といいますが、世界では広がっています。温泉などではタトゥーを禁止するところもありますが、入浴可能な施設と入浴できない施設を明確にする必要もあります。入浴のマナーも啓発する必要があり、日本温泉協会は「入浴エチケット啓蒙ポスター」を10言語で制作しました。

訪日客の忘れ物でホテルが頭を痛めています。「放棄したものか、忘れ物かわからない」ことが多いのです。宿泊名簿をもとに問い合わせて、希望があれば先方の費用負担で送り返しますが、海外発送手続きは複雑で、海外では着払い運送などのシステムが普及していないため、大変手間がかかるといいます。

訪日中にケガや病気になる外国人は5%、医療機関にかかる必要がある人が29%もいるといいます。保険に加入している人は73%もいるのですが、「外国人対応ができる医療機関はどこか分からない」「通訳ができない」ということで、せっかく旅行保険に入っても医療を受けられない人もいるといいます。

訪日外国人の「コト消費」の1位は「スキー・スノボー」で87%。「トレッキング」も増えています。また訪日客の遭難も増えています。バックカントリースキーによる遭難が目立ち、訪日客は日本人では考えられない行動を取ることが多いようです。

日本でキャッシュレス決済が進んでいないことは、訪日客の不満の1つです。中国では、「アリペイ」「ウィチャットペイ」のQRコード決済が普及しており、中国人から見れば「こんなに便利なQRコード決済が使えない日本は遅れている」といいます。しかし日本のスマホQRコード決済は、2018年度の512万人から、2021年度には1880万人へ増えるとも予想されています。

2019年〜21年に開業予定の客室数は、9都市で8万室増加します。大阪で21,000室、東京と京都で12,000室が過剰になるといわれています。すでに客室稼働率が低下し、宿泊料金も下がり始めています。

国別の国際旅行支出は中国が2580億ドル。米国の1350億ドルの倍でダントツです。世界から中国人観光客にラブコールが贈られています。中国人に人気のドンキホーテの免税品販売のピークは22時です。観光客は「お土産を持ちながら観光はしたくない」といい、この時間帯が混雑するようです。また、中国人訪日客に人気なのが「牛乳」。中国では加熱するので冷たい牛乳は新鮮だといいます。中国の都市部の人が農村部に出向くことを「肺を洗う」といい、海外の汚れていない空気に触れることを「肺を取り換える」といいます。キレイな空気を求めるのが観光の目的になる時代を迎えつつあるのかもしれません。

世界の国際会議は1万2563件。日本での開催は492件で第7位です。2017年の1位は東京、2位が神戸市、3位が京都市、そして大阪市は7位です。大阪は国際展示場のインテックス大阪も老朽化しており、国際会議施設の見直しが求められています。カジノを含む統合型リゾート(IR)誘致の大きな目的の一つになっています。しかし、候補地である「夢洲」は現在、コンテナ埠頭とメガソーラ発電所があるだけです。万博用地が100haとIR用地が70haといいますが、埋め立て未了地域も広大です。早く建設に着手することが望まれます。

訪日外国人旅行者の受入環境は大幅に改善しました。「困ったことはなかった」という訪日客は、2018年度は36.6%に上ります。困っていることの改善はさらに進め、訪日客に「日本好き」になってもらいたいものです。

以上です。

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