第52、53、54回文化観光研究部会のご報告

文化観光研究部会はNPO法人スマート観光推進機構と共催で、今年度上半期(2018年12月~2019年5月)に3回の研究部会を開催しました。以下ご報告です。

第52回文化観光研究部会

日時: 12月12日 (水) 18:30~20:30
場所: 中央復建コンサルタンツ 大会議室
講師: 横江友則 氏
(一般社団法人グローカル推進機構 専務理事)
(元・スルッとKANSAI代表取締役副社長)
テーマ:「鉄道と観光」 〜インバウンド推進の真の意義〜

「スルッとKANSAI」を設立し、鉄道業界にイノベーションを起こした横江友則さんに登場いただきました。2018年6月に大阪メトロを卒業した横江さんは、一般社団法人グローカル推進機構を設立し、第二の人生を歩んでいます。その横江さんに『鉄道と観光』、そして、これからの人生の生き方をテーマに語っていただきました。

キーワードは「逆風の時には空を飛べ!」です。プリペイドカード「スルッとKANSAI」の設立からICカード「PiTaPa」の誕生まで、逆風とイノベーションの連続であったと横江さんは話しました。

「スルッとKANSAI」の運用開始は1996年。前年の95年に阪神淡路大震災が起こり、鉄道が寸断されました。この時、阪急電鉄は神戸から御影まで、阪神電気鉄道は御影から梅田まで輸送することが可能でした。両鉄道線の乗り換えをスムーズにするために阪急御影駅の改札機を改造し、阪神の定期を使えるようにしたことから「阪急・阪神共通定期」を思いついたといいます。プリペイドカード「スルッとKANSAI」は大阪市交通局、阪急、阪神、能勢電鉄、北大阪急行の5社局でスタートしました。

ただ、ここに法律の壁が登場します。鉄道営業法の規定では、カードの残額が初乗り運賃を下回ると乗車できないことになっています。この問題は運輸省と交渉を重ね、鉄道会社の約款に「残額がある場合は乗車できる」と書き込むことによりクリアできました。顧客視点に立った新たな価値創造です。これがその後のPiTaPaの開発につながったということです。

スルッとKANSAI協議会では、各社経営陣で構成する理事会でミッションを統一し、鉄道会社をまたぐ中堅・若手に実質的に意思決定権限を委譲する仕組みができました。異なる社風の集合体だからこそ柔軟な発想を持つことができたといいます。「競争から共創へ」のパラダイムシフトです。

2000年にJR東日本がICカード乗車券の開発に着手。磁気カードで実現できなかった価値の向上のためのICカード化に向けた検討が関西でも始まりました。お客様の要望・意見には、①他の交通機関でも使いたい②コンビニなど店舗でも使いたい③精算機を使いたくない④回数券の種類が多すぎる⑤プレミアをつけてほしい――などがあり、これらをローコストで実現させる方法として、銀行口座にひも付いた「ポストペイ」に行き着きます。そして、2004年8月にICカード「PiTaPa」がスタートしました。

現在、インバウンドが急増しています。今後4000万人になるインバウンドの方々を隣人として迎え入れ、日本人および日本を好きになって、「平和の使者」としてお帰りいただくことが、インバウンド推進の真の意義であると横江さんは語りました。

この考えに立ち「世界の人々と日本の地域の人々が相互に交流することによって、日本に対する真の理解を推進し、地域と地域交通の発展と、世界平和に貢献する」というミッションを持った「一般社団法人グローカル交流推進機構」が2018年に設立されました。横江さんは専務理事として、ここで第二の人生を歩みます。

 

第53回文化観光研究部会

日時:2月22日(金)18:30~20:00
場所:中央復建コンサルタンツ 大会議室
講師:中西弘之 氏 (NPO法人 スマート観光推進機構 理事)
テーマ:地方で個人が自らインバウンド集客の装置になるAirbnb体験
〜自ら立ち上がり持続可能な仕組みと流れを作り出す時代〜

今回の文化観光研究部会は、Airbnb(エアビー)の体験ホストとして大活躍中の中西弘之さんに登場していただきました。

中西さんは、奈良でカフェを経営し、無料で宿を提供する世界的団体「カウチサーフィン」で60カ国から200人を宿泊させた経験を持っています。「カウチサーフィン」で宿泊するのは、医者や弁護士など社会的地位の高い人が多く、国境を越えて深い人間関係ができたといいます。

そのような原体験を持つなかで、2018年2月にAirbnb体験の説明会を受け、運命的な出会いを感じて、3月末から奈良でサイクリング体験のホストをしています。これまでの利用者は39カ国1101人に上ります。19年1月末のAirbnb体験ホストのランキングでは、レビュー数437、評価点4.92となり、日本の14位にランクされました。

「Airbnb体験ホストはガイドではない」という中西さん。相手が望むものを察し「感動を提供」することが大事で、観光案内より、日常会話のたわいもない話の方が感動を生むと話しました。訪日客は日常の日本を知りたいとの要望が強いようです。

ホスト体験で感じたことは、①家族連れが多い②学生が多い③アジアからカナダやオーストラリアへの移民が多い④お金持ちが多いーーなどです。「従来の観光は海外の代理店と日本の代理店を経由していたが、今は旅行者とホストが直接連絡を取り合うことが増えてきた」。「観光革命」が起こっていると感じるとのことです。

「Airbnb体験はまだまだ参入地域が少ないので、地方にもチャンスがある。Airbnb体験を始めるに当たっては、ほとんどノーリスクで、やるなら徹底的に、体験のはるか上の価値を提供することが大切といいます。そして中西さんは、「自分の体験で胸を張って言えるのは、①インバウンドに喜んでもらい②自分の好きなことをやって③地元に貢献でき④英語が上達できてメンタルも鍛えられて⑥効率よく収入が得られ⑦世界中に友達の輪が広がっているーーこと」と語りました。

 

第54回文化観光研究部会

日時:4月 8日 (月)18:30~20:00
場所:中央復建コンサルタンツ 大会議室
ゲスト:山田英範 氏 (ホテル中央グループ代表取締役社長 )
テーマ:「労働者の町から 旅行者の町へ 」
〜新今宮のビジネスホテルが築いたインバウンド観光への挑戦〜

「労働者の街」だった「新今宮」。 JR ・南海・地下鉄の駅から徒歩2〜 3分という、便利な場所にビジネスホテル「ホテル中央」があります。シングル1泊2千円台からという低価格が魅力で、多くの外国人観光客が利用しています。ホテルスタッフも外国語によるおもてなしを心掛け、阪南大学観光学科と連携した観光案内所を設置するなど、様々なインバウンド対応を実践中です。「新今宮」を「旅行者の町」変貌させた立役者・山田英範さんに語っていただきました。

山田さんは大学時代、バックパッカーとしてアジアを中心に旅をし、その後、オーストラリアの留学を経て、2005年から父が経営する簡易宿泊所の仕事に就きました。

かつての新今宮は、日雇い労働者の街として有名でしたが、バブル崩壊後は労働者が減少。生活保護者の街に変貌し、200件あった簡易宿泊所組合員も約60件に減ってしまいました。

そんな時に、安い宿を探していた東京の学生が、1500円という宿泊費に喜んだことから、簡易宿泊所の新しい活用法のヒントをつかみました。インターネットが登場した時代で、ホームページをいち早く開設したところ、日本人ビジネスマンが宿泊するようになり、日本語が分かる韓国や台湾の若者が利用するようになったため、ホームページの多言語化にも取り組みました。

山田さんは、新今宮に活気を取り戻すためには外国人を増やすことだと気付き、簡易宿泊所でインバウンドに取り組む「OIG委員会」に参加。外国人向けパンフレット作成や、外国人旅行者アンケー調査などの活動を展開しました。2004年に1万泊だったホテル中央グループの外国人宿泊数は、2007年には5万泊に増えたということです。

最近はネット予約が増えました。ネットで宿泊場所を探す人は「点数」と「レビュー」を見ます。この評価をいかに高めるか。それは「接客が一番」です。地道な努力の結果、2013年にトリップアドバイザーのベストバリューで4位にランクされました。

ただ、来阪外国人は2013年ごろから急増していますが、ホテル経営のリスクを考えると、外国人旅行者に偏るのは良くないため、ホテル中央グループでは外国人50%、日本人50%の比率を貫いているということです。

今、新今宮が大きく変わろうとしています。星野リゾートのホテルが今年着工し、2022年に開業します。地下鉄「なにわ筋線」も2020年に着工、2030年ごろに開業します。かつて「労働者の町」だった新今宮は、様々なインバウンドへの取り組みにより、多くの外国人観光客が利用する街に変貌しています。「活気とエネルギーがあふれる街を新今宮に創るよう、これからも努力したい」と、山田さんは講演を締めくくりました。

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