ベンチャー、起爆剤になるか

既存技術にビジネスの芽

経済再生へ支援制度に知恵を

日本電産社長 永守 重信氏

日本経済新聞 2001年9月3日 3面 経済観測

 官民挙げてべンチャービジネス支援に躍起になっている。新産業創出、産業構造転換の担い手として、さらに地域活性化や雇用の受け皿としての期待がかかる。だが、不況が深刻となり苦境に陥る若い企業も少なくない。かつてのベンチャーの旗手の一人、日本電産の永守重信社長に、ベンチャーが日本経済再生の起爆剤になるかどうかを聞いた。

○・・・経営の容易さ目立つ
 ―たくましいベンチャ―は育ってきましたか。
「確かに規制緩和が進み、支援策もかつてないほど充実している。環境は整い、企業数も増えつつある。しかし、全体としては心ときめくベンチャー企業に乏しい。創造業でみる限り、経営力不足というか、担う人材に深みがないように思う。経営の安易さ、無防備さが目につく。事業や取り巻く環境は10年で大きく変わる。それなのにいい場面ばかりを見がちだ。アイディア1つ、弾一発のピストルで勝負に向かっているように見える」

○・・・製造業弱れば栄えず
 ―製造業は開業率も低い。
 「アナリストや金融機関も含め、『ベンチャー=ハイテク』とのイメージに偏っている。既存技術を活用しながら根強く利益を出している中小企業もある。こうした企業や技術がきちんと評価されなくてはいけない。欧米でも起業の中心はハイテクではない。既存の技術から様々な新しいビジネスモデルを生み出している」
 「製造業や技術に対するニーズはまだまだある。しかし、日本の製造業全体がきちんとそれにこたえる方向に向いているのかという問題もある。ゲームなどに走り過ぎているようにも思う。製造業が弱くなって栄えた国はない。真剣に考えるべきテーマだ」
 ―情報技術(IT)不況の影響は?
 「IT関連のベンチャーは多い。こうした企業には厳しいだろう。今の不況は最低でもまだ1年は続く。さらに、不況期をぬけてもとに戻るわけではない。競争原理の徹底が進み、需要、生産などの構造が大きく変わる」
 「数量は回復しても価格は30〜50%下がるといった局面を覚悟する必要がある。こんな展開に耐えられないベンチャー企業がたくさん出る。ブームに乗って株式を公開した企業も半分以上が淘汰(とうた)されるのではないか」

○・・・雇用の移動進まず
 ―ベンチャーや起業による雇用拡大への期待が一段と高まっています。
「社会全体の問題がある。一朝一夕にうまくはいかない。例えば、1980年〜90年代の米国では、大企業からでた人たちが事業を起こし、それを支援する仕組みがあり、投資家もいた。ベンチャー企業もビジネス発展のために、彼らを積極的に受け入れた」
 「日本では依然として、自ら事業を始めることに社会的評価が低い。事業が小さいと金融機関が個人保証を要求し、下手をすれば親せき縁者の財産も危険にさらさなくてはならない。新しい事業は生まれにくい。働く人間にも『寄らば大樹』意識が強く、大企業から中小・ベンチャー企業への移動が進まない」
 ―来年度予算の重点分野に創業支援などがあります。政策への期待は?
「本気でベンチャー企業を育成したいのなら、小さい国家プロジェクトをたくさん作ればいい。国家プロジェクトというと一件百億円、千億円となるがそうではない。一テーマ一億円でもいい。国を挙げて知恵を絞り、テーマを選び、全国から若い人や若い企業に応募してもらう。規模の大小にかかわらず、国が全面的にバックアップする。こんな仕組みができれば、起業、ベンチャービジネスへの意識はかなり高まる」(編集委員 山形健介)
 


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