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未踏峰への登山とベンチャ−経営

同志社大学総合政策科学研究科教授・科長 太田進一


池田銀行『トイロビジネス』2003年2月号掲載予定の原稿

1.世界で初めての未踏峰の登頂に成功

 同志社大学山岳会では、2002年9月24日に世界で初めてヒマラヤ山系の未踏峰「ロンラ イカンリ」(6859メートル)に5人の隊員全員が登頂に成功した。
写真1枚付き「隊員5人がロンライカンリ峰(6859m)に初登頂、2002年9月24日午前11時40分快晴」
隊員5人がロンライカンリ峰(6859m)に初登頂
2002年9月24日午前11時40分快晴

隊長の和田豊司(56歳)と登攀隊長の西田克己(28歳)、隊員の植田雄介(29歳)、千田敦司(28歳)、坪井兵輔(31歳)のメンバーである。私(総隊長60歳)と同志社大学総合政策科学研究科院生の郎龍之(中国からの留学生、 28歳)は、(1)ヤルツアンポ河源流域の水資源、(2)人々と環境との共生、(3)持続ある開発などの学術調査を成功裏に行うことができた。

今回は、登頂に当たっては携帯型のトイレなどを持ち込み、ゴミなども麓まで持ち帰って肥料化するという「ゼロエミッション」を隊員全員が実践した。環境に優しい登山と学術調査を行うことができた。

 多くの場合は、高度障害などの影響で体調の良い一部の隊員のみが登頂に成功するケースが多いが、今回は全員が登頂に成功するという快挙を成し遂げた。

この成功要因を私なりにまとめると次の3点になる。

@ロンライカンリ登頂までに、隊員たちが最近1年間で18回にもおよぶ準備登山を行ってきたこと。そのうち5〜6回は日本最高峰の富士山に上っており、高度順応が充分にできていたこと。

A現在自営している隊長の和田は、東芝で電子レンジ事業部長(取締役)を務めた経験を持ち、組織を良く知っており、リーダーとして隊員のハーモニーと士気を調整することができていたこと。

B4年前に頂上まで後500メートルの地点で雪崩から撤退を余儀なくされており、その際の登頂に関する情報を収集・分析し、今回の登頂に活かしていること、である。

 これら未踏峰の山への初登頂の試みは、実はベンチャー経営と似ている。ここでは、登山の実践活動と企業の経営活動を対比しながら、心がけるべき課題を探ることにしよう。


2.未踏峰登山とベンチャー経営


 未踏峰への登山の試みは、企業経営、ベンチャー経営とそっくりである。パイオニア精神の発揮(開拓者魂)という点で相通じるものがある。

今回のロンライカンリ峰への登頂計画も、綿密に何年も前から準備されてきた。5年前に先遣隊2人がロンライカンリ峰の麓や近辺での探索を行い、それを資料として登頂計画を立て、1998年に5人が登頂を試みた。

今回の登攀隊長の西田は、前回は雪崩に会い深いクレバスに落ち込んで、反動でザイルが身体に巻き付き股関節脱臼を負いながら一命を取り留めた。リハビリで回復し、今回の頂上への登頂は、長い竹ざおで雪庇を探りながら一番乗りを実現した。

 なぜそこまで危険な思いをしながら未踏峰の山へ登頂するのか。平凡な答えながら誰かが言った「そこに山があるから」である。 では、なぜ経営者がリスク覚悟でベンチャー経営を行うのか。それはどうしても世の中に出したい商品やサービスがあるからである。

 登山も事業経営も一種のパッション(情熱)やドリーム(理想)の実現である。今回の計画も何回も会議を重ねて軌道修正しながら立てられてきた。

 中国登山協会やチベット登山協会への登頂の申込、連絡、契約。資金的には1700万円からの予算であり、主として企業や個人への寄付のお願いによる資金調達活動。

大型トラック2台分に相当する現地への50個以上もの隊荷の積み出し計画と実施。ロンライカンリ峰は中国やチベットの市販地図には明記されておらず、米国の宇宙衛星からの地図、ロシア製地図、中国政府地図、チベット製地図、ネパール製地図、イタリア製地図とあらゆる付近の地図の収集と分析。

他方で気象衛星や特別な契約を行って現地の気象データを収集・分析。また、日本とのメールや国際電話交換のためにインマルサット通信衛星との契約。日本や海外での準備登山。

これらはすべて自分たちの会社や記者、院生、教授としての仕事をこなしながら行われる。

 ベンチャー経営も全く同じである。親戚や知人、銀行、ベンチャー・キャピタルからの資金調達。商品やサービスの実現計画、販路開拓、企業成長のために他企業が真似のできないビジネス・システムの構築。


3.登頂の成功要因を企業経営に適用


@年間18回にも及ぶ準備登山や、データの収集は、ベンチャー経営での基礎体力の醸成とリスク分散と同義である。

技術・製品開発を通じた商品・サービス、マーケティング調査、資金調達、流通ルートの工作、販売促進活動、顧客からの情報のフィードバックなど、一連の地道な企業活動と同じである。

A隊長の好指揮振りと隊員たちのハーモニー。

これはベンチャー経営でも経営者・創業者の意欲と事業の展望などの好判断が重要であり、従業員に夢と希望と士気を与え、かつ従業員と経営者との調和が企業を成長させる原動因になる。

B4年前の頂上まで後500メートルでの雪崩による撤退は、ベンチャー経営でも失敗や目論見違いにより、事業の撤退や再起が必要になる点と同じである。

4年前の撤退で諦めていたら、今回の登頂の成功はない。事業も七転び八起きである。諦めずに事業計画を練り直し、何処に失敗の原因があるかを丹念に探り、再起計画を樹立することである。

あくなき探求と事業経営へのたゆまぬ情熱こそが成功へのパスポートである。


 

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