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知的クラスターとベンチャー学会
元奈良先端科学技術大学院大学教授 今田 哲
『日本ベンチャー学会会報』第18号,p.1,2002年6月.
本学会の今年の大会ははじめて東京を離れ、"ベンチャーの都"京都で11月29日と30日に、関西ベンチャー学会と共同で開催される。主題は「地域再生とベンチャーパワー」である。大会のお世話を担当する者の一人として、国の主要な地域振興施策である知的クラスター創成事業(以下、知的クラスター)との関係で、この大会への期待を述べてみたい。
私は大学在職最終年、大学が立地する関西文化学術研究都市の知的クラスター計画(ヒューマン・エルキューブ、Life, Living, Learningの3L分野で事業を展開)の作成にかかわった。知的クラスターは第2期科学技術基本計画を受けて行われるもので、文部科学省はそれを平成14年度の概算要求の目玉として取り上げているが、一言でいうと「大学等研究機関の研究シーズを地域に溢出させて、連鎖的に新規創業や起業を進め、日本版シリコンバレーを創出することをねらった政策」である。昨平成13年度には予備選抜された全国30地域に、大学等のどのような研究シーズを、地域のどのような特徴を活かして、ベンチャーを含むどのような産業創出に結び付けられるかを報告させた。いわば文部科学省が行った大規模なビジネスプラン・コンペだったと思っているが、コンペの結果、全国12の事業実施地域(広域を含む10事業)が選定され、総額60億円/年(5年間で300億円)の研究費が投下されることになった。さらに別の6地域が試行地域として選定されている。この知的クラスターは、次に述べるようにベンチャー学会にとってたいへん重みがあるのである。
第一に、知的クラスターがベンチャーの大きな創出源になることである。例えば私が関係したヒューマン・エルキューブでは5年間に27のベンチャーを創出することを目標にしている。他の地域の具体的な数値目標は知らないが多分大同小異だろうから、仮に25のベンチャー創業が平均的に1地域の目標だとすると、事業実施地域だけでも全国で300のベンチャーが知的クラスターから生まれることが期待される。これは平沼経済産業大臣が標榜する大学発ベンチャー1000社という目標の3割にあたる。大会の総括シンポジウムのタイトルである「地域再生と大学発ベンチャー」はまさに知的クラスター計画そのものといってよく、そこで全国の知的クラスター間で情報交換をする場を提供できればベンチャー学会としてはなかなかのものであろう。
つぎに知的クラスターとの協調により会員の増強、ひいては学会の質的向上が期待されることである。知的クラスターでは事業推進本部が設置され、本部長、事業総括、研究統括、科学技術コーディネーターが配置される。うち事業総括と複数名の科学技術コーディネーターは常勤である。さらに弁理士等のフルセットのアドバイザーにも予算が使える。自治体等から専任の事務職員が配置されるし、研究開発を担当する大学や企業の研究技術者、事業拠点となる大学地域研究センターの教職員などを含めると1事業あたり数十名、全国では数百名レベルの人員が新規創業や起業を意識してかかわることになる。彼らは起業等の方法論を模索することになり、ベンチャー学会にはナビゲーターとしての役割が期待されるであろう。それにこたえるのが学会の最優先課題である。
私はアメリカの大学技術管理者協会(AUTM)とベンチャー学会とを重複させて見ている。AUTMは、1980年にバイ・ドール法が制定され、大学が自前で特許を含めて研究成果の産業利用を管理する必要が生じたことで、それを担当する人たちが情報交換して自らの専門性を自発的に高めようと急拡大した。1990年からは北米の大学の産学技術移転に関連したデータを収集、公表しているが、その活動が徐々に認められて上院議員の政策提言に用いられるまでになっている。興味深いのはAUTMという非営利団体が独自に(日本では中央官庁でしか集められないような)データを管理し、それがオーソライズされていることである。また、明快な手引書を発行するなど、技術移転専門職養成のための教育事業を実施している。
ベンチャー学会は他の学会と違ってさまざまな期待をもった人たちで構成されているが、大きく分けると、ベンチャーを経営学や経済学の一部としてとらえるアカデミーの一群、自ら起業を志す学生を含むベンチャーパワーズの一群、そしてベンチャー資金提供者、コーディネーター、行政者などベンチャーの幅広いインフラを構成する一群の3つになるだろう。AUTMがインフラを構成する群の期待を担って発展してきたように、ベンチャー学会もそこを重点化するのが社会の要請に応え、発展する方策の一つのように思われる。地域再生と大学発ベンチャーに焦点を合わせた次の大会がそのような方向に向けての大きなステップになることを望んでいる。
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