会員論文

コミュニティ・ビジネスと情報

加福共之(注1) 関西エネルギー・リサイクル科学振興財団


1.コミュニティ・ビジネスと「漂流の美学」

 塩澤会長が当学会の「掲示板」のあり方を述べられた文章の中で梅棹氏の「漂流の美学」について言及されている。

 興味を覚え「漂流の美学」を読んでみた。誠に面白く刺激的且つコミュニティ・ビジネスにとっても示唆に富むようだ。

 あの、明治の革命のときも、明確な目標は何もないし、 いったいどうなるのか、だれにもわかっていない。しかも、なんとか難局をきりぬけてしまった。 日本の歴史をみますと、ここで一歩あやまったら今ごろどうなっていたかわからん、というようなことの連続ですが、それをいつも、無原則なビホウ策でのりきっている。
 一つの目的を終局の目的としない計画、計画のなかからつぎの目的がうまれでて、生長してゆくような計画、つまり ビホウ策の連続であるような計画は、まったく不可能なのでしょうか、これはとくに、地域計画とか都市計画のように、明確な目的をもつとこまるような分野ではあきらかなことです。
 これは目的をみうしなうということではありません。目的の自発的拒否であり、目的の流動化といってもいいかも知れません。目的が明確であるということは、機能的であるということです。機能的であるということは、単能的であるということです。
 いまこそ目的を持たぬことの積極的意味を評価すべきではないでしょうか。漂流型の行動の美学の意味を、積極的に評価すべきではないでしょうか。
(「漂流の美学」梅棹忠夫・人の心と物の世界・1973年の講演 梅棹忠夫『地球時代の日本人』中央公論文庫に所載)

 それでは「漂流の美学」はコミュニティ・ビジネスとどう関係するのだろうか。


事例1:株式会社アモールトーワ(NPO的)

 地域社会や商店街の再生を目的に東京都足立区東和銀座商店街の店主たちが出資して平成2年に設立された。

事業内容
   学校給食からお年寄への配食サービス
   (町内の懇親会からの注文も出てきた)
   人材派遣;大手スーパーの清掃業務受託
   (元時計屋店主等23名)、
   総合病院内売店の経営など、様々。
   売り上げは約4億円。

雇用の創出
   パートタイマーを含めた従業員数は、最大の給食部が約60人、他の事業部を合わせた総数で約130人にのぼり、その8割が女性である。

福祉関連のよろず相談
   空店舗に、障害者施設によるパンやグッズの販売店「Aフランキ」(足立区の孵卵器の意味)を出している、この店舗費用は(株)アモールトーワが負担している。この店で、福祉関連のよろず相談をして、在宅介護まちかど相談薬局的サービスの試行をしている。

   社長の田中武夫氏は40年以上洋服屋を経営、商店街の理事長でもある。

田中氏談
 「多種の事業をやっているが、最初から全ての計画があったのではない。自然に次の計画が生まれてきた。」(注2)

 この田中氏の「計画」は将に「一つの目的を終局の目的としない計画、計画のなかからつぎの目的がうまれでて、生長してゆくような計画」であり、漂流の思想そのものである。

 漂流も行動の1種には違いない。畳の上の水練ではなく、実際に漂流にのりだしてみると情報の方から人間に近づいて来るということではなかろうか。


事例2:千葉県流山市のNPO法人「流山ユー・アイネット」

 千葉県流山市のNPO法人「流山ユー・アイネット」は、地元の主婦など約350人のスタッフが、「重度の介護はプロに任せ、私たちは高齢者の心のケアを担う」と、高齢者訪問サービスなどを行っている。

 スタッフは一日一人を担当、何軒も掛け持ちしな いことが延長など融通の利くサービスとして好評を得ている。

 介護保険は利用できるサービスも時間も限られる。ユー・アイネットは「保険外の病院への送り迎え、お墓参りのお付き合いもする」。このようにお年寄りの需要を的確に捉え、介護保険でも報酬の少ない軽度なサービスや、保険の枠外で外出の付き添いや話し相手など「心のケア」を充実させている。

 利用者は1時間800円を支払う。ユー・アイネットが発行するチケットで払ってもよい。このチケットを受け取った人は、貯めておいて将来自分が介護サービスを受ける際などにも使える。
(時間預託制度・地域通貨・エコマネー)

 代表の米山孝平氏は元証券マン、地域の世話役から5年前、ユー・アイネットを設立した。

米山孝平氏談:
 一人暮らしのお年寄りにとっては、介護保険の枠外の話し相手は家事援助と同じくらい大きな意味がある。心のケアがあって初めて、身体介護がいきるので、車の両輪なのだ(注3)

 米山氏に、インタビューしていないので、以下は筆者の全くの推測である。
 介護保険制度が施行される以前から、福祉サービスを提供するNPOであった流山ユー・アイネットにとって介護保険制度の施行は大きな転換点であったのだろうと思われる。
 米山氏は介護保険制度の案が示される課程で、流山ユー・アイネットの事業を見直し、介護保険は利用できるサービスも時間も限らざるを得ない、しかし、利用者はもっと様々な要求を持っている、それなら重度の介護はプロに任せ、流山ユー・アイネットは心のケアを担うのだと柔軟に対応し、介護保険制度の発足を流山ユー・アイネットにとってのセレンディピティ(注4)としたのだろう。
 米山氏も漂流の美学がわかる人に違いない。


2.コミュニティ・ビジネスと女性の情報力

事例3:青森県下田町「でてこいセンターふぉれすと」

 青森県下田町では01年5月、イオン下田ショッピングセンター内に、ディサービス施設「でてこいセンターふぉれすと」が開設された。
 ショッピングセンター内でのデイサービスは全国的に珍しい。「ふぉれすと」には介護福祉士等の資格を持つスタッフがおり、お年寄りは、午前中はディサービス、午後は施設職員の付き添いで買い物や映画を楽める。利用者の定員は1日15人。ショッピングセンターの集客力は上がり、その分NPO側はテナント料を減免してもらっている。お年寄り、店舗、NPOのそれぞれにメリットがある新たな注目すべき地域社会づくりと言えよう。
 「でてこいセンターふぉれすと」の所長・熊谷啓子さんは長年福祉活動に携わり、ショッピングセンターのバリアフリー設計にも助言をするとともに、ショッピングセンターに掛け合いこのデイサービス施設を実現させた。

 利用者のお年寄りの感想:自分で買い物をすると、感動してパワーがわく。(注5)

 「でてこいセンター」を企画し実現させたのは熊谷啓子さんという女性である。
 「買い物が人間に元気を与える」という発想は勤め人の男性からは出てこない。
 何故、女性には可能なのだろうか。
 この辺りを論じた、梅棹氏の女性論・情報論があったことを思いだし探してみた。
 2点見つけた。

@情報産業社会と女性

 男も、もっともっと消費者になってよいのではないか。極端にいうと人口のごく少数のひとが生産者になり、大多数は消費者になってゆく。あるいはべつな観点からすれば、人間は、一生のごく短いあいだを生産者としてすごし、大部分は消費者としてすごすというのでもよいのではないか。
 そうすると消費者としての女の存在はあらためて評価されるべきである。人口の半分をしめる女の大部分が非生産者なのだから、人間の共通の目標がすでにそうとう程度に実現しつつあるのではないか。近代になってからは生産第一主義で、消費は悪であるという思想になっているが、かんがえてみれば根拠のないことである。なんの根拠もなしに、生産に無条件に価値があたえられてきたのである。
 「労働力」ということばに対して「情報力」ということばはおかしいであろうが、女性は労働力であるよりは、情報力として評価しなければならないであろう。
 あたらしい時代がひらけつつある。それは情報の時代である。そして、それは女性の時代である。
 『梅棹忠夫著作集』第9巻「女性と文明」1991所収(加藤秀俊との対談(1966)を書き直したもの)

A情報の考現学

 (工本主義)
 「農は国のいしずえ礎」という思想がある。  農本主義はつねに商工業の発展に対抗するかたちであらわれる。
 その意味では、農本主義はひとつの反動イデオロギーである。
 工業の時代にあって、農業は保護産業となった。それは食管会計という奇形的な制度によってかろうじてささえられ、工業社会にとってはおおきな負担となった。おなじ運命が、工業においてもまちかまえている可能性がある。工業は保護産業となり、国家の手あつい保護育成によって、かろうじて生存できるようになるのではないか。
 あるいはすでに、工業はかなりの程度にその道をたどりつつあるのではないか。いまこそ、工本主義イデオロギーがたちあらわれるときなのかもしれない。
 (基幹産業)
 生産第1主義はしだいに色あせて、生活第1主義が全面にでてくる可能性がある。〜生産と労働にかわって、消費と享楽が主人の座をしめつつあるのである。生産と労働が消費と享楽をともなうのではなく、消費と享楽が、生産と労働をみちびきだす。工業が情報産業への奉仕者となりつつあるのである。
 梅棹忠夫『情報の文明学』中央公論文庫(1971の講義メモを後に論文化したもの)

 そうか。男は騙されていたのである。
 気がつくと、世の中は既に情報化社会に化しており、それは女性の時代だという。
 女性は消費者として日々消費に関する情報に親しんでいるのに男性は近代に入ってここ200年ほど生産工場に縛り付けられ、生産第1主義の価値観の下、消費を蔑視するように訓練されて来た。
 経済学も対象が生産から、消費・生活様式へと拡大したのは1970年代中頃のことだという。(注6)
 果たして男性も生活者・消費者になれば女性同様のセンスが生まれる日がくるのだろうか。
 200年のハンディは大きい。


(補足)
 地域の情報の研究の先達として「文化経済学」がある。従来の経済学が需要の質より量を問題としてきたのに対し、文化経済学は消費者の嗜好・欲求水準の変化を重視する。
 コミュニティ・ビジネスが対象とする情報は将に地域の需要の質・地域の消費者の嗜好・欲求水準に関する情報である。従って文化経済学から見た「コミュニティ・ビジネスと情報」の考察があり得るのだが、筆者自身、文化経済学については未だ勉強の途中であり、またの機会に譲りたい。


以上

 
注1.コミュニティ・ビジネスに関する以下のTV番組を見ての感想。紹介されている事例は、すべてこの番組に紹介されたものを加福が整理した。
  『21世紀ビジネス塾』コミュニティ・ビジネス、NHK 2001年7月14日・21日
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注2.参考 中沢孝夫・変わる商店街・岩波新書、p138〜160
http://www.softcre.co.jp/think/com_biz03d.html
http://www.shokoren-toyama.or.jp/~doyukai/tyosa/teigen7-7-1.htm
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注3. http://www.j-act.com/uinet/
http://www.j-volunteer.com/03/uinet.htm
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注4. serendipity セレンディピティ
 予期せぬ掘り出し物・偶然の発見。耳慣れない言葉であるが、研究・開発の分野ではよく使われる。2000年のノーベル化学賞を受賞した白川博士の発見も、触媒の濃度を1000倍にするという失敗から偶然生まれた。選考委員長は、実験の失敗から生じた思いがけない発見・セレンディピティをすばらしい結果に導いたと白川博士を称えたということだ。
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注5. http://www.mainichi.co.jp/eye/yoroku/200012/13.html
http://www.toonippo.co.jp/tokushuu/kaigo/news2001/0501.html
http://www.aeon-simoda.com/
http://www.chiikidukurihyakka.or.jp/book/monthly/0105/html/colum2.htm
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注6.角山栄・アジアルネッサンス・PHP研究所1995・p30
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