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大野長八(おおのちょうはち) 1971年同志社大学法学部卒業、(株)日本エル・シー・工一入社、1986年同社取締役就任。1991年(株)ベンチャーリンク常務取締役就任。1996年リンク・インベストメント(株)取締役社長就任。1998年(株)ベンチャー・リンク顧問就任、現在に至る。2000年大阪市立大学非常勤講師。2000年関西ベンチャー学会顧問就任。 |
父は大手企業に勤め、管理職をこなしていた。時おり父に連れられ職場を見学したが、私の見る限り、父や部下の社員たちはあまり熱心に仕事をしていない。話のテーマもゴルフのスコアであったり、北新地のママさんのうわさであったりー。父は仕事を終えると部下を違れて飲みに出掛けるらしく、毎晩のように帰宅は深夜だった。
そんな父や周囲の皆さんの仕事ぶりを見ながら育ち、ご苦労様と思う一方で、必ずしも仕事に専念しない、できない日本の企業社会の現実に疑問を抱かざるを得なかった。そしていつしか、自分にとって男子一生の仕事とは何かと考え、一生をかけるに値する天職を探しながら成長してきた。
同志社大学に入学したものの、学園紛争の真っ只中で講義に集中できる環境にはなかった。そんなフラストレーションがたまり、これから一生勉強し能力を高め収入も高められる仕事はコンサルタントしかないと思い始めていた。
しかし、日本ではコンサルタントの地位はまだ低く、コンサルタント事業も低調だった。そこで、ボストン・コンサルテインググループやマッキンゼーの米国本社に直接手紙を書き、「コンサルタントになりたい。日本支社を開設するときはぜひ採用してほしい」とメッセージを送ったりした。懐かしい思い出だが、今では新卒でコンサルテイング会社に入るのは珍しいことではないものの、当時、そんなことを考えているのは私ぐらいではなかっただろうか。
折りしも、従来は大企業の下請けに甘んじ、弱い保護される存在としか見られていなかった中小企業を見直し積極的に詳価する機運が高まり、第一次ベンチャーブームが起きた。私は「これだ!」と直感し、以来、ベンチャー支援ひと筋の人生を歩んできたわけだ。
社会学者のマックス・ウエーバーは著書『職業としての政治』の中で、政治家には情熱と責任感と判断力が必要だと述べているが、そっくりそのまま経営者にもあてはまる。そうした経営者を育成するには早い時期にライフプラン構築の大切さを教えたい。人生を設計し、自己の責任で能力を高めステップを踏みながら目標に向かって成長していける人問に育てるべきだろう。
逆にいえばこれからは個々人の自己実現を応援する企業でなければ、優秀な人材に逃げられて生き残れない時代を迎える。たとえば35歳までに会杜を設立して45歳までに株式公開に持ち込みたいという目標をもった人材ならば、社内にベンチャー育成制度がある会社を選び、成功するためにも懸命に働く。個人が企業の犠牲になる時代は終わった。企業が個人をサポートし、サポートすることで企業もまた成長していくことが当たり前の時代になるだろう。
ただし現在のベンチャーブームには誤解がある。技術があれば起業できると思われているが、技術だけの会社はすべてといっていいほど淘汰されているのが、実情だ。なぜか。企業にマネジメントがなければ成り立っていかないという明白な事実が忘れられている。ざん新な製品やサービスであっても「いったい誰が買うのか」「使う立場になって考えているのか」と、首をかしげるようなものが余りにも多すぎる。
マネジメントとは要約すれば「プラン・ドゥ・シー・チェック&アクション」。計画を立てて実行し、さらに分析して軌道修正し、再び行動する。しかも、誰がいつまでに何をするかを個別に明確に決めていかないと効果はない。が、こうした積み重ねができると、多少技術に新規性がなくても十分回っていくものだ。
むしろ、私はハイテクにこだわるなといいたい。私はこれまで3000社の経営者と面談してきたが、実はハイテクより「ローテク」企業の方が、成功率が高い。今風にいえば成功するのは「ローテク8プラスIT2」型企業というべきだろうか。
あるレストランチェーンは急成長している、が、プロの料理人はゼロ。全員アルバイトでこなし、夜はピアノの生演奏を提供するなど雰囲気づくりが支持され、行列ができるほどの繁盛ぶりだ。昨年12月に株式公開した焼肉チェーンもアルバイト中心だが、脅威の利益率を誇っている。
日本で初めての洗車場チェーンにも注目している。基本的にアルバイトひとりで店舗を運営するが、高収益ぶりが評価され、使いようがなかった郊外に遊休地を抱える関西の有名銘柄企業からの引き合いが相次いでいる。
洗車場といえばこれまで暗くて汚いところというイメージがつきまとっていたが、この会社は「洗車場はサービス産業」という発想を貴いている。女性ドライバーにも利用しやすいよう配慮し、洗車中に幼児を安心して遊ばせられるキッズコーナーを設置するなど、きめ細かいサービスが躍進の秘密だ。
3社に共通しているのはいずれもチェーンビジネスで戦力をアルバイトに依存しながら、想定されるリスクを繰り返し繰り返し行っている顧客アンケートで十分補ったうえ、サービス向上に活用していることだ。
徹底して顧客の声を聞く。お客様にいいところも悪いところもすべて教えてもらうという精神だ。抽選で海外旅行が当たる特典をつければ、顧客は喜んで熱心に答えてくれる。アンケートにiモードを使って携帯電話でも答えられるようにすることなどが、ITをローテクに上手に活用する方法だ。そうしたアンケートからさまざまなアイデアが生まれ、低コストで他社を圧倒する商品やサービスを開発することができ、勝ち組にもなれる。
ベンチャーといっても、大きな技術革新はそう期待できない。それよりもマネジメントの重要性を認識し、小さな成功を積み重ねることで大きなノウハウを構築する発想で臨むべきだろう。
関西でも若くて優秀な人材が起業をめざすようになったことは喜ばしいことだ。大学でもベンチャー志向を高めたところとそうでないところがあるが、やる気のある学生はいい顔をしている。最近は学生の顔を見るだけでどこの大学か見分けられるほどだ。
一方、中高年になってからの起業はお勧めできない。退職金をつぎ込んで独立という人もいるが、長続きしない。創業してしばらくは不眠不休も辞さない覚悟が必要になるが、中高年になるとやはり体に無理が利かないからだ。白分で創業するよりも、これまで蓄積してきたキャリアや資金を生かし、若いアントレプレナーを応援するエンジェルになっていただきたい。
最後にもう少し長期的にベンチャー支援を展望すると、大学生よりさらに若いときからベンチャー精神をはぐくんでもらえる環境を醸成したい。アメリカではライフプラン教育が徹底し、小学生のころから将来に備え、アルバイトをして資金をためている起業家のタマゴもいるほどだ。
そこで今、親交のある私立学園のトップと話し合い、同学園の中高生を対象としたライフプラン講座をスタートさせる準備に追われている。自分なりの人生目標を立てて生きることの大切さを学んでほしい。父親の会社でインターンとして働いてみて、親子で対話をしながら働くことの大変さを知るとともに、創業の夢を膨らませてもらえたら素晴らしい。
私は関西が若い力で「ベンチャー大国」になることに1OO%の自信を持っている。