会員論文
スモールe企業とビジネス・モデル
太田進一(同志社大学商学部教授)
『中小公庫マンスリー』2001年5月号、Vol.485掲載。
ネットワーク経済の時代へ
これまでの日本経済の発展と特徴は、高度経済成長時代の「規模の経済」から、低成長経済時代の「範囲の経済」へ、さらに現代の不安定成長経済の時代は「結合の経済」へと推移し、ネットワーク経済の時代を迎えている。
ネットワークやIT(情報技術)の時代にあっては、必ずしもハードを生産するコンピュータ業者が利益率を確保するとは限らず、むしろ周辺機器やソフト・システム業者の方が利益率は高い。中小企業も新規参入の機会や利益確保の機会を得ることになる。業界標準の製品やネットワークを利用する者には「標準規格」や「プラスのフィードバック」の効果がもたらされ、標準を獲得するには、強力な技術管理力により業界標準へと推進するか、決定的な多数を獲得するために開放路線へと転換するかのいずれかの道を選ぶことになる。多くの中小企業では、標準規格を利用するか、開放路線に乗っかった製品開発をしている。
しかし、それに甘んじることなく、次に紹介するように、自らが巨大企業と果敢に戦い、己の知恵と活力によりビジネス・モデルを新たに構築し、企業成長する路線を選択するベンチャー企業や中小企業が誕生してきている。
スモールe企業の誕生と過当競争
ネットワーク経済下では、インターネット活用のEC(電子商取引)や、強力で低コストのビジネス・モデル、中抜きされた新しいバリューチェーンが生み出す新しい小企業など、ドットコム小企業が数多く誕生している。しかし、これら小企業はまた、米国に見られるようにネットバブルの崩壊により倒産企業を排出し始めたのも事実である。
かつての誕生間もない米国の自動車産業が何千社の自動車完成車メーカーを生み出し、過当競争の中から最終的に3社が生き残ったように、IT産業もまた、誕生間もない現代において過当競争時代を迎えようとしている。
ドットコム企業においても、激しい過当競争がこれから展開されることが予想される。
ビジネス・モデル構築による生き残り
ルシアとトルシリエリは、次のように四つを指摘している。
(1)アイデアの創始者ではなく、既存の概念を大規模に実現したものが勝利者となる。
ホームデポやサーキットシティ、デルコンピュータ、マクドナルド、ニューコアやディズニーは、いずれも小企業から出発したが、パワーリテーラーやバリューチェーンの迂回、集中化・簡略化・標準化、メガブランド化等を実現して大企業に成長してきた。平凡なアイデアでも、大規模に実現したものが勝利者になっている。
(2)顧客の基本的なニーズに対して優れたサービスを提供しながら、大きな利益を確保する。
顧客の期待を高めさせ、競合他社が追随せざるを得ないほどの環境を作り出して急速な成長を遂げ、高収益成長率を維持していく必要がある。それには、業界の常識を超える統合されたビジネス・システムが必要であり、競合他社よりも超低コストを実現することが肝要である。高い利益を生み出し、新しい顧客を引きつけられるだけの低価格を提供できる競争優位性を持ったビジネス・モデルを含む、より広範なビジネス・システムを作り上げなければならない。
(3)これらのビジネス・モデルを執拗に改善し続ける。
ビジネス・モデルを完成へと進化させることが求められる。フェデックス社が創設された当初は、医薬品や機械部品のメーカーや流通業者を対象に、翌日配達を目玉にしたモデルを開発したが、実際には書類がほとんどだったために、それに対応したビジネス・システムに修正して爆発的な売上の増大を達成することができた。
(4)ビジネス・システムの完成を目指して、業界において優れた業績を達成し、バリュー・プロポジションを調整し、実施可能なビジネス・モデルを開発する。
それには、ビジネス・システムを複製して、@買収やA地域拡大、B新市場領域への参入の、いずれかを選択して進める必要がある。ネーションズバンクは買収、ウオルマート、コカ・コーラは地域拡大、ニューコアは新市場領域への参入の選択を行ない、成長してきた。すべてを同時に進めることは危険であり、行き詰まる結果になるという。
モデル構築には小企業が有利
歴史から見ると、従来型のリーダーである大企業が革新化した事例はない。新設企業、小規模企業として起業した事例が大半である。米国のマクドナルド、ホームデポ、デル、サウスウエスト、ニューコア、GEキャピタル、日本のマザック、キャノンなどは、いずれも小企業としてスタートした。
確立された大企業は、自己の成功体験に陶酔し、危険を犯してまで「ロードス島」を飛び越えようとはしない。
スモールe企業は、困難なレースに直面しており、勝つか滅びるかのどちらかしかなく、利益を生み出さないことには生き残れない。生き残るには、競争しないよりは、終わりなきレースに参加した方がリスクは少ない。新ビジネス・システムを開拓していけるもののみが生き残れる。迅速に新ビジネス・システムを完成させ、複製することによって爆発的成長を実現するのがスモールe企業である。
もどる
トップ・ページ
会員論文
ページ・トップ