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第3回 医療・福祉研究部会発表論文

テーマ 「病院の経営について考える」
発表者 大阪滋慶学園 本井 治



はじめに

病院経営については、最近では普通に、そして活発に議論されるようになりました。
病院経営、診療報酬、医療安全、医療機能評価等々についての研修会、講習会、セミナーなどは、かつての状況からは考えられないほど増加してきています。

こういう様相を呈してきたのは、たかだか10年余り前ころからではないでしょうか。
もっとも、それ以前から病院経営、あるいは病院のあり方に真剣に取り組んでいる病院はもちろんあります。

しかしながら、ほとんど多くの病院は「経営」ということに対して積極的に理解しようという姿勢に乏しかったのではないのでしょうか。

その理由は2つ考えられます。
1つは、病院は潰れないという神話がありました。およそ厚生省(現厚生労働省)、日本医師会ともに病院が潰れないように支援していたのではないのでしょうか。少なくとも病院経営を難しくする施策は、現在ほどではなかったはずです。病院が潰れると患者が、国民が困るからという人道上(?)の見地からと思われます。

2つ目の理由は、医療という聖域に「経営」という発想は不純だという考え方です。あたかも医療の中に経営という発想を持ち込むと医療の質が低下する、ということを真剣に強調する医師の声が大きかったのです。他を寄せ付けない強烈な専門意識をもつ医師である古典的な院長の考え、ある意味でいうと偏狭な理想からです。また、当時の看護職者の中にも患者のために医療、看護をするのであって、経営のためにするのではない、という極めて崇高な志を持っていた人が多かったのではないでしょうか。

そして、事実、病院は滅多なことでは潰れなかったのです。 


1.医療機関の倒産
病院の経営について考えを進めるのに、まず、医療機関の倒産の状況について考察します。帝国データバンクの調査(*1)によると、医療機関の倒産件数は、1992(平成4)年、史上最高の44件と記録され、医療界でも注目を浴びました。もっとも史上最高といっても医療機関の倒産のデータをとること自体がそんなに古いことではありません。
 その後、2002(平成14)年、その年に史上2番目の倒産かといわれたのですが、結果として47件となり、史上1位の記録を更新しました。この背景には、当然のことながら倒産に至らないまでも多くの赤字病院が増えているということは想像に難くありません。
 倒産の三大要因は、「販売不振」「放漫経営」「設備投資・経営計画の失敗」となっているのですが、これだけで病院経営についての管理者の認識の程度が想像できます。

(1)販売不振 〜 患者数の減少を意味するのでしょうが、この原因による倒産件数が増加傾向にあります。すでに、患者は病院を選ぶ時代になっていることに気が付かない病院がまだあるといえます。

(2)放漫経営 〜 経営を考えない病院の結果として、あまりにも当然です。(ゴルフ、海外旅行、土地投機、株などに力を向けているのでしょうか)減少傾向にありますが、どこの世界に経営を考えずに生き残れる産業があるでしょうか。

(3)設備投資・経営計画の失敗 〜 原因としては減少傾向にありますが、本当に真剣に計画を立てていたのか疑われます。投資する金額に対して回収できる方法を真剣に検討したのでしょうか。経営計画をどのように考えて作成したのでしょうか。

さて、倒産が増える、赤字病院が増える、経営がむずかしい、といわれるのは何故でしょうか。その背景、要因はどこにあるのでしょうか。
極めてあたりまえの構図があります。

医療費はどんどん増加しています。
そして、それに対して医療費適正化策という医療費抑制策がますます厳しくなります。
当然、病院収入は伸び悩み、減収になります。医療の定価は病院独自で決められるものではなく公定価格だからです。

一方、支出が減少するという要因は、特に制度上なにもありません。
果たして、経営悪化への道を辿っていく、という筋道ができてきます。

すでに、病院経営ということを真剣に考えなくてはならない時代だということはまちがいありません。


2.国民医療費の増大
国民医療費は、1978(昭和53)年以来、ほぼ毎年1兆円ずつ増加しています。(*2)

一時期、介護保険の導入により医療費の伸び自体に変化が生じますが、社会保障費としては増加しています。
すでに国民医療費は30兆円を越えています。あまりに大きな額で庶民にはどのくらいの額か実感がありませんが、これに相当するものとして、パチンコ産業が同規模といわれています。娯楽も必要ですが、医療は国民にとって不可欠の存在です。 

2025(平成37)年には56兆円になるという。それが医療制度改革を実施すれば48兆円に抑えることができるという厚生労働省の試算です。
この試算が正しいのかと思い古いスクラップを探し出すと、平成9年の推計によると同じ2025年には104兆円になるとの記事がありました。

そして、皮肉にも同じ疑問を誰でも持つことの証明として、つい最近(2006年7月8日)の朝日新聞に「厚労省の推計はどこまで信じられるか」という医療費と年金の推計についての記事が大きく掲載されました。推計の大きく乖離している状況が分かりやすく解説されています。
また、京都大学の西村周三教授も、この試算はおかしいと発言されています。(「医療マネジメントの課題」2005年11月5日京都橘大学主催の講演)  

厚生労働省は推計と実績との比較分析を行い、その都度、国民に示すべきではないのでしょうか。何故なら、この推計に基づいて各種の施策の方針が決められるのですから。

しかし、厚生労働省の推計が過大かどうかは別にしても、国民医療費が増加していくことはまちがいない。

では、その原因はどこにあるのでしょうか、その要因は何でしょう。
間違いなく人口の老齢化です。もちろん他の要因として、医療技術・機器の進歩、国民のニーズの高まりなどもあります。
年齢別の年間1人当たり医療費を見ると、高齢者になるほど平均よりはるかに高い金額であることが分かります。

(『国民衛生の動向』(2005年P205)平成14年度国民医療費から筆者要約)
  平 均      244,200円
 〜64歳      152,900円
 65歳〜      645,600円
 70歳〜(再掲)  732,500円   
 75歳〜(再掲)  820,300円   

65歳未満の平均額が65歳以上になると4倍以上、70歳以上では5倍近くになっています。平成13年と平成14年を比べると減少していますが、すぐ翌年の平成15年には再び平成13年を大きく上回り増加しています。


3.少子高齢社会
老人が増え続けます。どういう状況にあるのでしょうか。

周知のように平均寿命の国際比較では、女性はトップ、男性は2位。(2005年の平均寿命は6年ぶりに下がり女性は1位、男性は4位と発表された。平成18年7月26日朝日新聞)健康寿命ということが最近いわれていますが、これについても日本はトップといわれています。すばらしい国といえます。

さて、それだけで安心していいのでしょうか。

少子高齢化という言葉が日常的に使用されています。
15歳未満の人口減少と65歳以上の増加の速度は共に恐るべき勢いです。
WHOでも65歳以上を老人と定めていますが、老齢人口が7%を超えると高齢化社会といい、14%を超えると高齢社会、21%になると超高齢社会といいます。

そして、わが国はつい最近、超高齢社会に突入しました。
さて、こうした高齢化が加速度的に進んでいく、そういう社会をどのようにとらえるべきなのでしょうか。

わが国が14%を超えた高齢社会に達したとき、すでに欧米先進国のいくつかの国はさらに高齢化が進んでいる国もありました。やがて、21%を超える国ももっと増えるにちがいありません。

ここで問題なのは、その高齢化のスピードです。65歳以上の割合が7%から14%になるのに、スウェーデンは85年、イタリア60年、イギリス50年、ドイツ45年を要しました。わが日本はわずか24年で高齢社会を迎えてしまったのです。

わが国は、およそ他国に比べ2倍、3倍の速さで高齢社会に突入してしまいました。
日本人は、常に先頭を走っている先進国の模倣をしながら成長を遂げてきました。ものまねのうまい日本人と言われながら、今では決してはずかしいことではなく、国民性の長所だとしてむしろ誇っています。

しかし、この高齢化の速さについては、見習う国がありません。
多くの国は老人が増える社会への準備を着々と進めてきました。一定の期間と老化の進行速度を調和できるように国のあり方に合わせた助走をしてきたのです。

わが国は、そんなことに気づかず、ひたすら成長だけをめざしてひた走りに走ってきました。
ふと気づくと、高齢化速度ナンバー1になっています。

そのために、わが国の社会に大きな歪みを生じているといえないでしょうか。
教育も、福祉も、もちろん経済も社会のあり方そのものも、そして医療の世界も。
福祉介護の面でも、大慌てで議論に議論を重ね、ようやく介護保険法を制定したのが、1997(平成9)年、施行されたのは3年後の2000(平成12)年です。


4.わが国の対応策
このような状況の中で、医療に対して、どのような施策がとられてきたのでしょうか。

二つの手法があります。

一つは、医療に関連する法律の制定と改正です。
もう一つは、経済誘導となる診療報酬の改定です。

世界に冠たる保険制度を思うさま活用しようとしています。
まず、前者の関連する法規については、医療法、医師法、歯科医師法、健康保険法、老人保健法等々の改正、そして、前述の介護保険法の制定などです。
医療法については、敗戦後まもなく1948(昭和23)年制定以来、37年経ってようやく第一次改正、そして7年後、第二次改正、5年後、第三次改正、3年後の2000(平成12)年には第四次改正と立て続けに改正してきました。そして近く第五次改正があります。

この改正の内容をたどれば、わが国の医療の変遷、直面してきた課題の状況、その時代がめざそうとした医療のあり方などが概観できます。

主な改正内容をいくつか挙げます。地域医療計画制度の導入、適正な医療の効率的提供、理念の整備、特定機能病院と療養型病床、広告の規制緩和、病院掲示の義務付け、業務委託の拡大、患者への説明と理解、地域医療支援病院、医療法人制度の改正、等々。これだけでもわが国の医療の軌跡がたどれるのではないでしょうか。

さらに、第四次改正には、大きな反響を呼んだ「病床区分の選択」です。「一般」病床と「療養」病床に区分するので、各病院が自らどちらかを選択しなさいという内容です。病床は、医療法により「精神」「感染症」「結核」「その他の病床」と区分されるのですが、この「その他の病床」を「一般」と「療養」に分けたということです。

 「一般」病床を選択する病院の条件をいくつか抜粋してみると、@急性疾患を対象、A在院日数が短い、B医師、看護師の確保が容易、C1人1日当たりの点数が高い、などが考えられます。

もうこれだけで、国は病院をどのようにしようとしているのか、ということが見えてきます。Cの意味は、密度の濃い医療をする病院、つまり高度な医療行為ができる病院、という意味です。

そして、「療養」病床にすれば赤字になりませんよ、と誘導した。
しかし、2003(平成15)年8月31日までに届出が締め切られた結果、126万床の「その他の病床」は「一般」と「療養」の比率が「7:3」という配分になり、厚生労働省の思いどおりとはならなかったといわれています。

その後、さらに「療養」病床への誘導は続きます。「療養」病床は確実に増えていきました。そして、今回の改革で、療養病床38万床を2012(平成24)年には15万床にするという。実に23万床の減少政策です。

さて、「その他の病床」(「一般」+「療養」)の数は、2002(平成14)年の1,267,215
床をピークに減少への道をたどります。翌、2003(平成15)年には、わずか1年の間に、5,802床の減少です。
病院の数も減少していきます。1990(平成2)年に1万を超えた病院数は、現在、9000余りです。まだまだ減ると予測されています。

ところで、我が国の保健システムはWHOにおける評価は世界一です。日本はもっと胸を張っていい。いつでも、どこでも、だれでも安くて一定標準の医療を受けられる。こんないい国はありません。

これを支えているのは国民皆保険制度です。世界に冠たる保険制度です。
かつて、聡明なヒラリー夫人が実現しようとしたができなかった。一部の国(フランス、台湾など)でも制度化しているところがありますが、日本のような優れたシステムと制度ではないといわれています。

その保険制度は、現実の医療関係者には診療報酬という全医療行為の単価を全国一律価格として設定しているシステムであるわけです。
その定価が2年毎に改定されるのですが、従来、薬価は切り下げながら、医療行為全体を意味する診療報酬本体については医療技術の評価として上げられていました。ところが、2002(平成14)年度には切り下げられ、また、今回(平成18年度)も大きく切り下げられました。つまり、医療費の定価が下げられたために、当然収入は減額となります。

支出面では、この時代に物価は下がっているでしょうか。医療機器の高度化と新機種の開発、医療器具の進歩、安全と効率性のためのディスポ化の推進等、材料費の高騰はあっても下がることはありません。人件費についても、バブル崩壊以後、下がったこともありましたが、近年の医師、看護師等確保に要する努力は並大抵ではありません。医療は数合わせではできません。優秀な医療技術者を確保しなければ医療そのものが成り立たないのです。進歩する医療を適切に患者に提供するためには、一定の医療技術者の質と量を確保することが、病院にとって極めて当たり前のことです。

また、経費は、委託費はどうでしょうか。経費といわれる支出科目のうち光熱水料は公的価格であり、病院が価格を交渉し安価で供給というわけにはいきません。節約することしか支出を抑えることはできないのです。外部委託の導入も著しく進み、その支出を抑えに抑えることが経営改善の唯一の方法と考えている病院もあります。派遣されている職員のこともある意味で社会問題になっています。病院管理と外部委託のことについても重要な点ですが、そのことについては別に譲ります。

見事に医療費抑制という経済誘導が作用しています。
収入は社会主義であり、支出は資本主義といわれる所以です。


5.医療のあり方・・・診療報酬との関係
しかし、そういう状況の中で、近年の診療報酬改定の特徴をみると、わが国の医療のあり方がある方向に向かっていることに気づかなくてはなりません。

かつての薬漬け、検査漬け、水漬け(点滴)ということで収入をあげていた医療のあり方から、大きく変化してきました。およそ平成のはじめ頃から、指導料、管理料といういわば無形の医療行為が評価の対象として増えて、それまでの有形の医療行為のみの評価から大きく変換してきました。

特に最近の「医療の質」を重視する医療安全、感染防止、インフォームドコンセントなどの評価としての点数設定は、医療のあり方を具体的に、現実的に変える役割を着実に果たしてきました。

そして、最近の褥瘡予防、ニコチン依存症への対応は、わずかながら予防という概念を保険の中で認めたということも大きな進歩といえます。

診療報酬の変遷は、医療費とともに一方ではわが国の医療のあり方を考えさせる内容でもあるわけです。

今年(平成18年)4月の改定では看護師の配置を厚くしたこと、つまり患者対看護師比率の上限を「10:1」から「7:1」に設定したことは医療の質の重視にほかなりません。また、DPCの拡大は平均在院日数の短縮を余儀なくさせます。(しかし、こうした改定に対応できない病院は、むしろ経営的には厳しい状況に追い込まれます)日本の医療の方向性をこれだけでも感じとることができるのではないでしょうか。

さて、ここでわが国の医療の課題、あるいは問題点をいくつか挙げてみます。

(1)平均在院日数が長い (後述)
(2) 患者中心の医療 ――― 医療従事者は患者中心といいながら、本当にそうですか。そういう掛け声にかくれて実は職員中心になっていませんか。
(3)医療従事者の充実  (後述)
(4)インフォームドコンセントの徹底 ――― かつての時代と比べるとはるかによくなりました。しかし、アンケートなどに反映されるように、医師は説明したという回答率に対して、患者の方が説明を受けたとういう率の隔たりは依然としてあります。患者からの第一にあげられる苦情が説明不足です。これに対して、医療者側がいつも言うことは「聞いてくれれば説明したのに」という弁解です。医療者は説明責任があるということを厳しく認識すべきです。

今までの診療報酬の改定による変化は他にも多くありますが、医療の、あるいは病院のあり方が実際に改善されたこともあります。その代表的な例を少し挙げます。

(1)かつて、わが国の医療費の中で薬剤費が1/3を占めていました。そんな国は他にありません。現在は20%以下になりました。
(2)病院給食については、早い、冷たい、まずい、の3悪評が根強くありました。しかし、適時適温という誰もが望む食事は点数を設定したとたん見事に改善されました。
(3)付き添い看護は日本の医療の恥部でした。新看護制度に改定されたことによって、無くなったと信じています。


6.わが国の医療の課題
さて、わが国の医療の課題は他の国と比較してみれば明らかになります。
次の表から、わが国の医療のあるべき方向が見えてきませんか。

国名
人口千人当たりの病床数 病床百床当たりの医師数 病床百床当たりの看護師数 平均在院日数 外来受診率(1995) 人口百万人対CT台数 人口百万人対MRI台数
日本

13.1 12.5 43.5 31.8 16 84.4 23.2
ドイツ 9.3 37.6 99.8 12.0 6.5 17.1
(1997)
6.2
(1997)
フランス 8.5 35.2 69.7
(1997)
10.8   (1997) 6.5 9.6 2.8
イギリス 4.2 40.7 120 9.8   (1996) 6.1 6.2 4.6
アメリカ 3.7 71.6 221 7.5   (1996) 5.8 13.2 8.1

(尾形裕也 「医療法と医療機関の対応策」2005.10.7.医療経営セミナー資料から抜粋)

 まず、わが国の病床数は他の国と比べて、2〜3倍多すぎます。

そして、医師数は病床数当たり1/3〜1/6と少なすぎます。看護師の数も同様に病床数当たり1/2〜1/5と少ないことが分かります。

一方で、平均在院日数は3〜4倍の長さです。

これらのことから、仮に病床を1/2に減らし、平均在院日数を1/3に短くすると、
ベッド当たりの医師、看護師の数はアメリカ並みになります。

勿論、外国の平均在院日数が圧倒的に短いのは、日本のような保険がないため入院がそのまま医療費として大きな負担になることが大きな理由であることは想像に難くありません。わが国は国民皆保険であるがために3割の負担で済む。どちらがいいのでしょうか。また、入院日数をどこまで短くすることが適正でしょうか。単に外国並みにすることが、わが国の医療のあり方として適正かどうか、そういう議論が必要ではないでしょうか。

それにしても、CTとMRIの保有数の多さには驚かされます。わが国の医療のあり方
を一体どうしようとしているのでしょうか。果たして、めざそうとしている方向は正しい
のでしょうか。是正すべきことは何なのでしょうか。

さて、別の面から医療のあり方、病院のあり方について、何を望むのかということを先ほどの項目と重なることもありますが、次のように挙げてみました。

(1)患者中心の医療
(2)医療の質の向上
(3)チーム医療の実践
(4)パターナリズムからの脱却
(5)説明責任の認識
(6)EBMの明確化

個々の項目の説明は省略しますが、いずれもわが国の医療のあり方にとって重要なことです。これらのことについて改善し、推進するためにはどうすればよいのでしょうか。

勿論、一つひとつについて、それぞれの病院において改善のための方策を検討することは当然のことです。
しかし、これらの項目はそれぞれが別々の課題ではなく、すべてが相互に関連しています。こうしたことの解決に快刀乱麻を断つがごとき方法はないにしても、極めて有効なツールがあります。
 すでに多くの病院で取り組んでいる「クリニカルパス」という手法です。この発想自体、アメリカから導入されてまだ歴史は浅いのですが、取り組む姿勢によっては予想外の効果を発揮します。

クリニカルパス導入の動機として、経営改善、入院日数短縮、患者への説明のため、ということをよく聞きます。

しかし、一番の目的、効果は医療の質の標準化(向上)ではないでしょうか。
同じ疾患についての治療方法が、検査の種類が、入院日数、説明方法などが、病院によって違う。それならまだ分かるのですが、同じ病院でも診療科によって異なる。出身大学によって違う。医師個々で違う。それでも治ればいいのかもしれませんが、予後の状態が違う、後遺症が残る、などという違いがあっては困ります。

そういう意味では、クリニカルパスは極めて優れたツールです。
最近では、クリニカルパスを導入することに抵抗は少なくなりましたが、まだ、古典的な一部の医師は自らの裁量権を強調するために、個々の患者の症状に合わせた医療ということを主張して、クリニカルパスに否定的な意見もあります。
クリニカルパスが優れたツールだということは、患者を中心にしたチーム医療の形成に役に立つからです。チームで計画を作るのですから、そこには当然パターナリズムもEBMも、そして説明の方法も、従来と異なった改善が可能となります。

そして、その先には、自分の病院だけでの医療行為の完結ではなく、患者を主人公にした地域全体でのパスをシステムとして構築すること、つまり地域連携パスがあります。

診療所、病院、福祉・介護施設、デイケア、在宅などが個々に患者を取り込んでしまうのではなく、患者を中心として地域全体でクリニカルパスをする、という発想です。疾病をもった人がどういう人生をその地域で送ることができるのか、ということをコミュニティとして考えることが大事ではないでしょうか。

さて、もう一つ重要な外国との比較があります。
 よく議論されていることですが、総医療費の対GDP比です。



                         資料:OECD [HEALTH DATA 2004]  
(注)
@上記各項目の順位はOECD加入国間におけるもの。
A医療費については、現地通貨で発表の統計数値を該当する年の年間平均為替レートで換算。

わが国の1人当たりの医療費は5位でも、総医療費の対GDP比は17位と随分低い比率になっています。前述したように、少なくとも日本は安い医療費で、他国より適正に医療を提供しているといえます。

もっと医療費にお金を使ってもいいのではないか、という主張もここから出てきます。こうしたことを政治任せにするのではなく、国民がもっと主体的に考えるべきかも知れません。

小泉首相になってから、「骨太の方針」が毎年出されます。今年も第6弾として、7月7日閣議決定されました。歳出削減対象5分野の中に社会保障が入っています。わが国の医療あり方について、どのように考え対処しようとしているのでしょうか。


7.病院の経営について
 さて、病院の経営について考えなければなりません。病院経営についての基本的要素として、いくつか病院の特性をあげます。

(1)多職種、多部門から構成される
(2)対象が身体的、精神的、社会的弱者である人間
(3)公共性、社会性、倫理性が求められる
(4)個別的対応(大量生産ではなく)
(5)24時間エンドレス
(6)営利を目的としない(医療法)
(7)法的、制度的規制が多い
(8)収入は公的価格(一物一価)
(9)管理者は医師でなければならない(医療法)
(10)人件費率が高い。利益率が低い((6)だとしても)

 これらは経営的にはすべて不利な条件といわざるをえません。
だからどうするのか。
 病院の経営手法は、他の産業に比べはるかに遅れているといわれています。
 だからこそ、管理者はじめ医療関係者は、病院を運営する、管理する、経営する、ということについて、基本的に理解すべきことを共通認識としてもたなければ適正な病院管理はできないのではないのでしょうか、ということがこの「病院の経営を考える」ということの極めてあたりまえの基本的な結論です。
 病院を取り巻く環境の変化と病院自体が持つ特性の中で、現実的に医療を提供していく体制、システムなどを考えなければなりません。
 その具体的な方策などについては、基本論から発展論として別の機会を考えたいと思います。


おわりに

以下、蛇足ではありますが、それではどういう病院にすべきですか。そういう問いが当然出てきます。

どういう病院にするのか、という統一された理想的病院を特定することはむずかしいのでしょう。さまざまな形があるでしょうし、また、時代の要請によっても変わってくるのかもしれません。そして、ある理想的な病院にしようとしても今風のマニュアルなどないのです。

自らの病院の使命と役割を自ら考え、理念を明確にし、実現していくことに他なりません。そのための病院作りをしていくのです。病院という組織のハードとソフトをどのように構築していくのか、ということを考えなければなりません。

どのような病院にするのか、ということに対して基本的に言えることは、すでに述べた「6.わが国の医療の課題」の中で(1)〜(6)を挙げましたが、これらのことを常に当然のこととして身につけている病院を形成することだと思います。

そのためには、どういう取り組みをしていくのか。

「トップダウン」―「ボトムアップ」とはよくいわれることです。両者が重要なことは極めて当然のことです。トップの理想(理念)を共有して、管理職グループで想を練る。どういう病院にしたいのか、ということについて議論します。その構想の大枠、概要が描ければ、病院を構成する各部門、各職種の中間管理職者が分野別に具体的事項について整理していきます。それを定期的に全体像の中に組み込みます。そうしたサイクルをスタッフまで浸透させて繰り返していくと、病院を構成する職員は自らの考えたことが一つひとつ具現化することに大きな喜びをもつことができます。

このことは何のことはない、かなり以前から言われ続けているPDCAサイクルのようなことになります。最近になって、病院経営にもリバイバルのようにPDCAの手法が叫ばれだしています。いいかえれば、それだけ病院は効率的運営、適正な経営管理ということに疎い組織であったことの証左といえます。

ほとんど多くの病院では何らかの問題をかかえています。むしろ問題のない病院はないのではないでしょうか。それぞれの病院が多くの課題をもっています。そしてそれらは一定ではなく、病院の機能、規模、立地条件等々により千差万別といってもいいかもしれません。
しかし、それらのなかに何らかの共通項があるのではないでしょうか。

その共通する事項についての基本的改善策というものを見いだすプロセスと効果に手ざわりを感じられるようになれば成功への道がみえてきたといえます。

病院の玄関をくぐったとき、多くの人は、もう何かを感じています。安らぎのある病院か、冷たい病院か、急性期か、療養的な病院か、職員はやさしいか、患者の心配を分かってくれるのか、主役はだれか、医師か、患者か、あるいは職員か、などなど。

どういう病院にしたいのか、ということを職員がはっきりと自覚していれば、わざわざ患者サービス、インフォームドコンセントなどの極めて基本的なことについて大仰な議論をしなくても苦もなく実行できてしまうのではないでしょうか。

どういう病院にするのか、という問いに純粋経営的な面からでなく、抽象的精神論で答えるようなことになってしましました。現実的な方法論にはなっていませんが、経営的なノウハウについては別に譲ります。

 患者中心、チーム医療、インフォームドコンセント、リスクマネジメント、クリニカルパス、DPC、患者の権利、情報管理、バイオエシックス、・・・いろいろと医療の世界では取り組むことがあふれています。

 そして、一方で、顧客満足が強く求められ、苦情窓口の設置の義務、そして医療訴訟も増加していくという厳しさにも直面しています。
医療従事者は誠実であろうとすればするほど、疲れてもいます。
 だけど、医療に携わるということは、途中で投げ出すわけにはいきません。
 
どうするのですか。
実力のある病院にしましょう。
 地域から信頼される病院にしましょう。
 職員がみんなで力を合わせて、いい病院にしましょう。
 自分の病院で働くことができることに喜びをもてる病院にしましょう。
 自分の病院で働くことに誇りと希望が持てる病院にしましょう。
 そういうことを目指して病院作りをしたいと考えます。



(1)「特別企画:医療機関の倒産動向調査」帝国データバンク
(http://www.tdb.co.jp/watching/press/p041002.html)
(2)「国民衛生の動向」財団法人厚生統計協会、2005年

基本文献
(1)「国民衛生の動向」厚生統計協会、2005年
(2)「厚生労働白書」ぎょうせい、平成17年版
(3)「医科点数表の解釈」社会保険研究所
(4)「医療政策六法」中央法規、平成17年版
(5)「Dr.武藤のよくわかる看護マネジメント」日総研、2004年
(6)「医療・福祉経営管理入門」(四訂版)国際医療福祉出版会、2004年


○略歴
 国立療養所兵庫中央病院、国立療養所近畿中央病院、国立療養所西奈良病院、国立療養所宇多野病院、国立循環器病センター、厚生省近畿地方医務局、国立大阪病院を経て

 平成 6年7月 厚生省近畿地方医務局 経営指導課 地方経営・監査指導官
 平成 9年4月 国立大阪南病院 会計課長
 平成10年4月 厚生省保健医療局 国立病院部 経営指導課 経営指導官
平成12年4月 厚生省保健医療局 国立病院部 経営指導課 施設整備管理室補佐
 平成13年4月 厚生労働省近畿厚生局 経営指導課長
平成14年4月 医療法人財団姫路聖マリア会 姫路聖マリア病院 管理部長
平成15年4月 医療法人恵生会 恵生会病院 事務部長
平成17年7月 学校法人 大阪滋慶学園 顧問

  平成14年10月 大阪保健福祉専門学校 非常勤講師
  平成17年 4月 四条畷看護専門学校 非常勤講師
  平成17年 4月 国際東洋医療鍼灸学院 非常勤講師
  平成18年 4月 大阪医療技術学園専門学校 非常勤講師
     他


○著作物
 「看護業務と診療報酬」共著 平成9年9月 
「看護部門―経営管理情報」日総研Vol.10 No. 5
 「在宅医療―整形外科医の役割」共著 平成10年9月 
「臨床整形外科」医学書院 Vol.33 No. 10
 

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